大腸がんは日本では肺がんの次に増加しているがんで、あと数年で胃がんとほぼ同数になるという予測もあります。その原因としては食生活の欧米化などはあげられていますが、まだはっきりとしたことはわかっていません。はっきりとした原因がわからないので、今のところはこれといった予防法はありません。
ただ、やっかいなことに胃や大腸のような消化管のがんはできたばかりの小さい病変(いわゆる早期がん)では症状がほとんどでません。胃がんは潰瘍を作るような病変の場合には小さな病変でも症状がでることはありますが、大腸がんの場合はポリープ状に消化管の内部へ発育することが多いので、相当な大きさになるまでは全く症状がでないことは普通で、進行がんになっていても全く症状がないことも珍しくありません。
大腸がんででる可能性のある症状としては便秘、下血があります。便秘はがんによる便の通過障害で起き、特に短期間で急に便秘がひどくなったという場合は要注意です。下血はがんと便でのこすれによって起きますが、下血があっても必ずがんがあるわけではありません。また、便やガスが全くでなくなる腸閉塞という状態でみつかることもあります。
下痢症状で大腸がんを心配する方もいますが、下痢というのは腸の炎症などによる大腸粘膜からの水分の吸収障害であったり、腸の動き(蠕動)が良すぎて便が固まる前に肛門まできてしまうために起きる症状で、大腸がんで下痢になることは基本的にありません。ただ、下痢が続くために原因検索として大腸検査を受けて偶然にがんが発見されることはあります。
以上のように、症状の有無と大腸がんの有無は相関しないことが多く、大腸がんは症状だけからは全く判断できないと言っても過言ではありません。そのため、大腸がんの早期発見のためには症状がない状態での大腸検査が必要なのです。
一般的に行われる大腸がんの検査法としては便検査、大腸レントゲン検査、大腸内視鏡検査があります。健康診断で行われることの多い便検査は便潜血反応といって目に見えない程度の便に混じった血液成分を検出する検査です。
統計的には2日間便を採って調べると10人中1〜2人くらいが陽性になり、さらにその陽性者を精密検査すると、陽性者の100人中でがんが見つかるのは2〜3人程度です。つまり陽性になっても大腸にはなにも病気がない人の方が圧倒的に多く、便潜血陽性=大腸がんではないということです。ただ、それはあくまで統計的な結果から言える事実で、陽性になっても精密検査を受けなくても良いという意味ではありません。
また、便検査はがんがあっても便とのこすれがあった場合のみ血液が混じるので、まだがんが小さかったり、大腸の奥の方(肛門から遠いところ)にある場合では反応がでないこともあるので、便潜血が陰性でもがんが絶対にないという裏付けになるわけではありません。
つまり便検査の位置付けとしては、あくまで大腸精密検査を受けるかどうかの選別という程度で、病気の進行状況までをうかがい知ることはできませんので、すでになんらかの症状がある方の病気の診断、ポリープなどの病変があることがわかっている方のポリープの大きさの経過観察、がんやポリープの治療後の再発の有無を調べたりすることに用いることは基本的にありません。
通常便潜血で陽性になった場合に行う大腸の精密検査としてはレントゲン検査と内視鏡検査があります。レントゲン検査は肛門からバリウムというレントゲンにうつる白い薬(バリウム)と空気を大腸内に入れてレントゲン撮影する検査法、内視鏡検査は肛門から内視鏡を入れて直接大腸内を観察する検査法です。いずれも大腸の中を観察できるという点では同じなのですが、最近は内視鏡検査が行われることが多くなってきました。
その要因としては胃の検査でもいえることですが、検査の精度の高さ、施行可能な医療機関の増加があります。レントゲン検査は影絵をみているような検査法なので残渣や便か病変(がん・ポリープ)かの判別が難しいことがあり、さらに詳しく調べる必要がある場合は、後日に再度内視鏡検査が必要となるため、初めから一回の検査でほぼ診断が完結してしまう内視鏡検査を行うようになってきています。経験された方はわかると思いますが、診断は確実ですが内視鏡検査の場合にはやや苦痛を伴うことがあります。大腸というのはお腹全体を1周しており必ず誰にでも曲がり角があり、内視鏡はそれなりに硬さがあるために、その曲がり角を通過する際に苦痛を生じることがあります。そしてその曲がり角の数や角度には個人差があり、一般に便秘気味になることが多い大腸が長い人は曲がり角が多く、曲がる角度も急角度になる傾向が強く、このことが大腸内視鏡検査時の苦痛の一番の原因になります。
機器・手技の進歩により以前よりは検査時の苦痛は軽減してきており、前述の通り現時点では大腸に関しては内視鏡がベストの検査法ですので、大腸疾患が心配な方は便検査だけではなく、なるべく内視鏡検査での確認をおすすめします。
ただ、大腸の内視鏡検査は検査にあたっては大腸内をすっかりきれいにする必要があり、胃の検査のように当日の朝食を食べないですぐに検査ができるというわけにはいきませんので、事前の受診・予約が必要となります。
検査をご希望される方はまずは最寄りの施行可能な医療機関に相談してみてください。
記 八子胃腸科内科クリニック院長八子 章生